片想米

「おはよう佳主馬くん!」 ゆっくりとした手の動きを片足で保ちながら、それに合わせた息遣い ゆっくり、ゆっくりと時間の流れを感じようと目を瞑っていた 不意にその流れを破る様に健二の声が届いた 健二は佳主馬の母、聖美に頼まれてタオルと着替えを持ってきていた なんと切り出していいものか、考えた結果 空気も読めない大きな声で佳主馬へ挨拶をした 目を開けて、無言のまま健二へと視線を向けた 邪魔しちゃったかな。ごめんと謝る言葉を佳主馬へぽつりと呟いた 「……」 「毎日の日課にしてるのかな?」 「そうだけど、なんか用?」 健二がタオルを握りしめて、話を切り出した様子に視線を向けたまま答えた 動きを止めた体からは汗が垂れはじめ、張り付く前髪を軽く払いのけた 垂れる汗はタンクトップの裾を引っ張り、顔を近づけて拭った 慌てて、預かっていたタオルを差し出した健二を見上げた 「あ、ご、ごめん。これ聖美さんから預かってきたんだ」 「……ありがと」 「……」 タオルを受け取れば首元にかけて縁側へ座った 立ったままの健二を自然と見上げるように顔を上げた その健二の顔は明らかに佳主馬を見ながら、口元がパクパクと何かを言いたげに動いていた 着替えも受け取った佳主馬は、それを不思議そうに見つめたまま、 べたついたタンクトップを脱ぎ、新しいタンクトップへと着替えた そのまま汗でぐしょぐしょに濡れた服とタオルを持って立ち上がり、去ろうとすれば、 健二が待ってと言わんばかりに、あっ。と小さく声を上げた 「…まだ、なんか用?」 「えっ、えっ、え、と…」 「…………なに、持ってるの」 肩から上を健二へ向けて聞いた 照れたように視線をさ迷わせて、なにかを隠しているのか一歩下がった 頬を染めている健二に首を傾げて長い沈黙のあと何も言わない健二に 内心、めんどくさいな。と思いながら聞いた 聞かれた言葉にようやく後ろ手に持っていたものを佳主馬へ差し出した これから朝ごはんになるであろう、三角の形をしたお握り ご丁寧に海苔も巻かれ、皿の隅に沢庵 つい先ほど、聖美はあまり集まりに顔を出さない佳主馬を気にかけていた 台所へ挨拶しに顔を出した健二に、笑いながら 「作って持っていってくれない?佳主馬は健二さんのこと気に入ってるみたいだし」 と声を掛けていた 「あ、え、あの、これ……さっき手伝いをして…作ってみたんだ、けど…」 「台所…はいったの?」 「え、あ、うん…聖美さんにお願いされて…」 「ふうん…」 差し出されたお握りを見てから健二へと視線を戻した ホントに何者。と呟きながらお握りに手を伸ばした 豪快に口に頬張る佳主馬をじっと見つめる健二をよそに 指についた塩を舐めとりながら二個目を手にした 思わず、おいしいのかな。と照れたまま聞いた 頬張りながら肯定も否定もせず、ただ黙々と食べていた 皿の上がからっぽになれば健二に背を向けた ありがと。と小さく聞こえた声に健二は嬉しそうに目尻を下げた 愛想もないまま佳主馬はその場を離れると、腰が抜けた
中学生に思いを寄せる高校生^〜^おいしい 2009 8 27