落とし穴

健二の正座をする上にちょこん、と膝を抱えて座る佳主馬の横に 夏希が健二に寄りかかりながら腕を組んでいた 暑い中、さらに暑い空間がそこにあった 電話を片手に健二が二人のやりとりを半分聞いていたが 内容を理解していないのか仲がいいな。など呑気に構えていた そろそろ正座をしていた足も痺れてきたのか、佳主馬を下ろそうと胡坐に直した そこに佳主馬はすっぽりと健二の胡坐の中におさまった 夏希は頬を膨らまして不満そうに健二へ視線を向けたが、すぐに佳主馬に視線を戻した 退きなさいよそこから!という大きな声に思わず健二は夏希へと顔を向けた 電話の向こうからも「なんだ、どうした」と声が聞こえた 「ちょっと佳主馬くん、健二くんにくっつきすぎ!」 「そんなことないよ」 「私の彼氏よ!少しは離れてくれてもいいでしょー」 「やだ。お兄さんは僕の彼女だし」 電話の向こうへ反応するよりも健二は目の前で繰り広げられる戦いに汗をかいていた 佳主馬と夏希が健二を取り合っていた 彼氏であったり彼女であったり、健二からしてみたら「いつそうなったの?」という疑問で頭がいっぱいだ 疑問がうまく言葉に出せず喉が鳴った 「へっ、えっ」 「私の彼氏!」 「僕の彼女!」 二人は止まることなく彼氏か彼女か、健二を間に挟みながら拘っていた 電話の向こうでは笑い声が聞こえていた 笑いごとじゃないよ!と健二が一瞬忘れていた電話へ返事をした 佳主馬と夏希がすごい剣幕で健二を見上げた 「健二くん!」「お兄さん!」 「はいいぃい!」 今にも噛みつかれそうなほど顔が近い佳主馬と 今にも千切れそうなほど夏希に握られた腕が痛いのか それとも怒声に似た大きな声に驚いたのか、健二は声を裏返した 「「どっちが好きなの!!!」」 「えっ、えっ、ボクには佐久間が…」 どっち!と聞かれた健二は頬を赤らめながら 持っていた電話を二人へ向け、佐久間と表示された画面を見せた 電話の向こうでは勝ち誇ったように「ハハハ」と笑い声が聞こえた
佐久間の独り勝ちもありだと思う今日この頃 2009 8 29