鉛灰 3

不愉快、そう思う。 僕が。僕の。僕である為の理由を奪いとろうとしている。 健二さんが好きという、この気持ちを。 「好きって、別に対した意味じゃないでしょ」 「そんなこと…ないよ」 「ハッ…本気で言ってんの?健二さんが?僕を?」 「今でも、好きだと…思う」 どうして今になってそんなことを言うの。 どうしてあの時に気づいてくれなかったの。 どうして。どうして。どうして。どうして。 なんでもっと早く言ってくれればよかったのに…。 7年は、長いよ 心の中がざわめいた。 嬉しいのか悲しいのか憤りなのか。 どの感情も今の僕には結びつかない、それはただ虚しさだけしかない。 どんなに考えても、もう健二さんは僕のものにはなりはしない。 それなのに、 それなのに健二さんの泣きそうな表情を見て頭の中が空っぽになった。 「なら、僕とキスしてよ」 「…え、っ…えっ」 「好き、なんでしょ?」 「………」 「健二さんは、やっぱり嘘つきなんだね」 「ちが、う…僕は…僕は、…」 僕が好き、とは伝えていない。 それが健二さんに伝わるとも思いが通じるとも思っていない。 だからこそ健二さんからのキスを求めた。 無理やりでもよかった。 けど、それはしてはいけない。 それが答えだから。
2010 3 11