すぐそばに

健二が夏希先輩と付き合い始めたようだ その報告を聞きながら「ああ、やっぱり?」なんて思った 大概、俺も嫉妬深くて女々しい 夏希先輩に健二のことをよろしくとか言っといて、男なら殴ってるところだ 嬉しいより、寂しい 寂しいより、悔しい 「俺の健二だったんだ…」 OZ内で仮ケンジの姿と夏希先輩の鹿を模したアバターを見ながら 音声をミュート設定にして画面に呟いた ふと画面のわきから兎のアバターが顔をひょっこりと出した 「キング、カズマ」 聞こえてると思っているのかキングカズマを使っている佳主馬本人の口元が動いた え?と船漕ぎしていた椅子がガタンと音を立てて、危うく後ろに倒れそうになった 佳主馬は相変わらず不機嫌そうな、それともそういう雰囲気なのか 俺が慌ててミュートから音量を上げると、やはり怒声に近い声で話しをしていた 「ちょ、た、たんま。キングカズマもう一回最初から話してくれない?」 「……人の話、聞けないわけ?」 「いや違うって、今ミュートにしてたの」 「…まあいいや、佐久間さんてさ彼女いないの」 「え?いや言ってる意味がよくわからない、というか、なんでその話しになってるのか聞いてもいい?」 「だから佐久間さんは今フリーなのかって聞いてんの」 「や、え?なんでキングがそれを聞くのか分かりかねるんだけど」 「……健二さん並みに鈍い」 「あいつと一緒にしないでくれないかな」 「じゃあなんで聞かれてるか自分で考えなよ」 「え、ちょっとキング!」 困った俺の表情が佳主馬に映っているのか、ため息深く吐きながら 「仕方ないな」と前髪を軽く払いのけながら言葉を紡いでいく 思わずドキッと胸が高鳴った 前髪でずっと隠れていた目元が見えて、高圧的な目で睨まれた 彼女がいるかいないか。 俺にとってのある意味、彼女的ポジションにいた健二はいない その微妙に傷心な俺になにを聞いているのか分からない状態だった なんで? 聞き返してもそれはそれは冷たげにまた睨みつけて 一方的にそれも言いたいだけ言って回線を落ちていった
2009 9 29