初羞

「健二さん」 「はいい!」 「……なにか、見つけたの?」 ソーシャルアーツでの対戦が終わり、背を向けていた健二に声をかけた 佳主馬の声に驚き大きな声で返事をしながら体全体を姿勢よく整えた 続いた声の低さに健二は恐る恐る佳主馬の方へと胸元に何かを隠すようにして顔だけを向けた 「え、いや、その」 「隠してるもの、出して」 「か、佳主馬くんは見ちゃだめなんだよ!」 「…なんで?」 「ここここれは侘助さんに返すものだし、だめだよ!」 隠す様子にむっ。と眉間に皺を寄せた佳主馬を見つめた健二はごまかすために 首を左右に勢いよく振った その眼前に右手を差し出した佳主馬に「へっ?」と間抜けな声を出した健二 それをかき消すように佳主馬の低い声が納戸に響く 健二の体へと近寄れば、健二が二歩後退した 次第に追い詰められていく健二に対して佳主馬が強引に襲いかかるように体当たりをした 体当たりに思わず健二は隠していた本を振り上げた 折れないように、大切そうに、それはそれは勢いよく振り上げた その本を佳主馬は見上げた 表紙はピンク。いわゆるそういう本 「侘助?…へーそう、健二さんてばそういうこと興味あるんだ」 「ない!ないよ!」 「でも大事そうに見てたでしょ?」 「そんなことない!ちょっとだけ…その」 「ちょっとだけ、なに?」 「中を見ただけで、はずかしくて表紙をチラッて見ただけです」 「………健二さん、ホントに高校生?」 「な、だって今まで付き合ったことなんて…!」 侘助の名に佳主馬は益々、怪訝そうな表情を浮かべていた その手には振り上げられたはずの本を手にしていた 健二に見せるようにペラペラと何ページか捲れば 「やめてやめて」と耳まで赤らめて、捲る佳主馬の手を制止させた
2009 10 13